「到着〜〜」
 15分は全力で自転車を走らせただろうか。その甲斐あり練習で浪費した時間を多少は取り戻せ、何とか日暮れ前に観鈴の家に辿り着くことが出来た。
「ふう……」
 夕暮れ時が近付いていることもあり、日中に比べれば多少は暑さが和らいだ。しかし全力で駆け抜けた代償として、私は全身汗だくだ。自転車を走らせている時蓄積した汗が、走るのを止めた瞬間一気に放出されたかの様な汗まみれの身体だ。
「往人さん、お疲れ様。はい、ジュース」
「済まん、恩に着る」
 この汗だくの身体に、ジュースは干天の慈雨に等しい。私は観鈴の厚意を素直に受け、ジュースを口にし始めた。
 ズ……ズズ……
「ぶふっ!?」
 何だ、このどろどろとした固形物は……!? そのとてもジュースとは思えぬ固形物を口にすることが叶わず、私は思わず吐き出してしまった。
「わっ、もったいない!」
「観鈴、これは一体なんだ……?」
「何って、どろり濃厚ピーチ味だけど」
「どろり、濃厚……!?」
 一体これのどこがジュースだというのだっ!? こんな固形物がジュースだとは商標詐称と言っても過言ではない!
「往人さん、美味しくない……?」
「むっ、いや、多少変わった味だが……美味しいぞ……」
 しかし、ここで観鈴の厚意を無駄にする訳にもいかない。私は何度も吐き出しそうになるのをひたすら堪えながら、何とか全部飲み干した。
「う……美味かったぞ……。しかし、口の中に甘いものが残るのはどうも下せん。済まんが、麦茶辺りを持って来てくれぬか?」
 固形物の異常な味に夏の暑さが相乗効果を弾き出し、今にも吐き出したい気分だ。私は観鈴の厚意を無駄にしないよう言葉遣いに気を付けながら、観鈴に麦茶を持って来るように頼んだ。
「はい。でも、そろそろ家の中に入りません?」
「それもそうだな……」
 この暑い中で待ち続けているよりは遥かに嘔吐感が鎮まるだろうと、私は観鈴の家の中に入って行った。


第拾九話「一つ屋根の下で……」

「はい。持って来ましたよ」
「済まんな」
 観鈴の家の居間でくつろぎながら、観鈴が持って来た麦茶を口にする。口の中に残っていた気持ち悪い異物が麦茶の濁流に押し流され、何とか気分を落ち着かせることが出来た。
「ねえ往人さん。お風呂とシャワー、どっちがいいかな?」
「風呂とシャワー?」
「あっ、別に深い意味はないよ! 往人さん汗かいただろうから、お風呂とシャワーどっちがいいかなぁ〜〜って思って」
「そうだな。汗を流すだけならシャワーが手っ取り早いが、多少疲労が残っている感もあるしな。ここは風呂だな」
「うん。水をくんで温めるのに15〜20分くらいかかるから、少し待っていてくださいね」
「うむ」
 観鈴は風呂を汲む為一度居間を後にし、数分後戻って来た。
「往人さん。今のうちに訊いておきますけど、お夕食は何がいいですか?」
「そうだな。ラーメンセットでも戴こう」
 どうやら風呂に入らせてもらえるだけではなく、夕食も戴けるようだ。ここまで観鈴の世話になってもいいかものかとも思ったが、素直に私は食したい物を語った。
「ラーメンセットですね。ご飯とギョーザのセットと半チャーハンとのセットがありますけど、どっちがいいです?」
「ふむ。半炒飯も悪くはないが、ここは飯と餃子のセットだな」
「分かりました。夕食時が近付いたら作りますね」
「作る? 出前を取るのではないのか?」
「はい。わたし、こうみえても料理は得意なんですよ」
 先程の問い掛けから注文を取るものだと思っていたのだが、どうやら観鈴自らが作ってくれるらしい。観鈴の力量がどれほどかは実際食してみないと分からないが、ここは夕食時を期待しながら待ち続けるとしよう。
「しかし、観鈴が作るのならば、半炒飯と餃子のセットというのも有りなのではないか?」
 私は素朴な疑問を投げかけてみた。何処かの店の出前を取るのならともかく、観鈴自らが作るのなら、炒飯と餃子のセットというのも有りなのではないかと。
「う〜ん、でもラーメンセットと言えば普通ギョーザとご飯のセットか半チャーハンのセットかですよ。二兎を追う者一兎を得ず。ぜいたくは敵ですよ」
「訊いてみただけだ。別に飯と餃子があればそれで事足りる」
 別に炒飯と餃子の二つとも食したかった訳ではない。その二つを食したいと応えた場合、観鈴がどういう反応をするか確かめたかっただけだ。どうやら観鈴には観鈴の拘りというものがあるらしい。
 そうこうしている内に風呂が汲み上がり、私は風呂場へと直行した。
「ふう、やはり落ち着くな」
 熱い風呂に肩までどっぷりと浸かる。疲れそのものは力で回復出来るが、気分の問題というものがある。力で疲れを癒すよりも、こうして風呂に浸かり汗ばんだ身体を流しながら疲れを癒す方が良い。
 20分程ゆったりと浸かり、私は風呂から上がった。



「むっ?」
 風呂から上がると、脱衣場の籠に入れてあったTシャツがなくなっていたことに気付く。
「観鈴、私のTシャツをどこへやったのだ!」
 私は大声で観鈴にTシャツをどこへやったのか訊ねた。
「あっ、往人さん。往人さんのTシャツ、汗ばんでいたから洗濯機にかけました。代わりのTシャツ置いてたんで、それ着てください」
 少し離れた場所から観鈴の声が聞こえる。恐らくは夕食の準備か何かをしているのだろう。
「これか、替えのTシャツというのは」
 籠の中をくまなく探すと、替えのTシャツらしきものを見つけることが出来た。
「何っ!? こ、これは……」
 手に取ったTシャツをよく見ると、胸の所に大きく恐竜の絵がプリントされていた。替えのTシャツかと思ったが、デザインからして観鈴のかもしれない。
「他にTシャツらしきものは……」
 他のTシャツはないか籠の中を調べて見たが、他に替えのTシャツらしきものはない。認めたくはないが、この恐竜柄のTシャツが替えのTシャツらしい。
「観鈴! 他にもっと無難なデザインのTシャツはなかったのか!」
 私は大声で観鈴に他にTシャツはないのか訊ねた。
「ごめんなさ〜い! 赤い色のTシャツなかったから、それでガマンしてくださ〜〜い!!」
「誰が赤いTシャツを着たいと言った!? 誰が! もっと無難なTシャツはないかと訊いてるんだ!」
「そのTシャツ、ステゴサウルスさんがプリントされたわたしのお気に入りなんで〜〜す!!」
「……」
 これ以上会話を続けても無駄だと思ったので、私は半ば降参する形でステゴサウルスTシャツを着た。
「うん。似合ってる、似合ってる」
 居間へ赴くと、開口一番服が似合っていると観鈴が笑顔で応えてくれた。
「……。百歩譲って恐竜柄のTシャツは認めよう。しかし、もっと男らしいデザインの恐竜の柄のTシャツはなかったのか?」
 恐らく観鈴は赤いTシャツか恐竜柄のTシャツしか着せたがらないので、私は視点を変えて違う柄のTシャツはないか訊ねてみた。
「う〜ん。恐竜柄のはそれしかないけど、漢らしいデザインのなら他にありますよ」
と観鈴は言い、男らしいデザインと見受けるTシャツを持って来た。
「はい、これです」
 観鈴から渡されたTシャツを手に取って見る。表にはハートマークに「King Of Heart」と文字の掛かれた紋章が描かれており、後ろには「新一派東方不敗 王者之風 全新招式 石破天驚 看招! 血染東方一片紅」と漢文らしき文字が刻まれていた。
「……」
「どう? 漢らしくてカッコイイでしょ?」
「いや……やはり今のTシャツでいい……」
 直感的だが何かのアニメ作品のTシャツな気がして、私は大人しくステゴサウルスTシャツを着続けることにした。



「はいっ、できましたよ〜〜」
 午後7時を過ぎた辺り、待ちに待った夕食時が訪れた。観鈴が笑顔で運んで来たのは、注文通りのラーメンセットだ。
「では戴くとしよう」
 果たしてどんな味がするのだろう? そう思いながら私はまずラーメンを口にした。
「どうです? おいしいですか?」
「うむ。店のラーメンと言う程ではないが。十分に美味い」
「にはは。良かった、往人さんに喜んでもらえて」
 程好い茹で具合の麺に、薄過ぎず濃い過ぎないスープ。なかなか絶妙にバランスの取れたラーメンだ。他の飯の炊き具合や餃子の揚げ具合も良い。私は観鈴の手料理をこれでもかと味わったのだった。
「ごちそう様。美味いラーメンセットだった」
「お粗末様でした。今のうちにお皿とか洗っておきますので、往人さんは居間でTVでも見ていてくださいね」
「分かった」
 私は台所を後にし、居間へと向かった。特にこれといった面白みのある番組がなかったので、無難にNHKのニュースを視聴することにした。
(それにしても、そろそろ帰って来ても良い時間だと思うのだが……)
 そろそろ7時半になろうとしているが、観鈴の家族が帰って来る気配がない。単に仕事が忙しいのか、それとも……。
「お待たせ、往人さん」
 そんなことを考えている内に、観鈴が食器洗いを終わらせて居間へ姿を現わした。
「観鈴、他に家族はいないのか?」
 私は疑問に思っていることを素直に訊ねた。
「うん。お父さんはお仕事が忙しいから滅多に帰って来ないし、お母さんはわたしが小さい頃に……」
「いや、分かった。もういい」
 観鈴の母の所在が何となく分かったので、私はそれ以上言及しないことにした。
「しかし、それだと観鈴はこの家に一人か。寂しくないのか?」
「ううん、寂しくなんかないよ。いつもお母さんと一緒だし、それに……」
(お母さんと一緒……?)
 お母さんと一緒とはどういうことなのだろう? 先程の言葉と共に察するに、観鈴が幼い頃寝たきりになり、以後家での介護生活が続いているのだろうか。
 しかし私が見た限り、この家に私と観鈴以外の人の気配はない。第一寝たきりとはいえ母親がいるのなら、夕食時母親の元に食事を運んだ筈だ。しかし、観鈴が夕食を運んだ形跡はない。
 恐らく、精神的な問題か何かで一緒にいるものと思い込んでいるのだろうと、私は勝手に結論着けた。
「それにメールでお父さんと毎日のようにやり取りしているし、ネットもするし。だから、寂しいことはないよ」
「ネットか」
 ここ数年パソコンが流行り出したのと平行する形で聞こえて来たネットという言葉。恐らくパソコンと関連したものなのだろう。
「実の所、ネットというものをやったことがないのでな。観鈴に差し支えなければ少し触らせてもらいたいのだが?」
 興味本位でネットというものをやってみたいと、私は駄目元で観鈴に頼んでみた。
「いいですよ。パソコンはわたしの部屋にしかないから、わたしの部屋でよければ」
「構わんよ」
 観鈴の発言から察するに、やはりネットとパソコンは不可分な存在なようで、私はネットを行う為に観鈴の部屋へと赴いて行った。



「……」
 観鈴に案内されて、観鈴の部屋へと赴く。いざ観鈴の部屋を前にすると、少女の部屋に男が足を踏み入れていもいいものだろうかと、つい躊躇ってしまう。
「どうしたんです? 別にわたしに遠慮する必要はないですよ?」
「そうか」
 観鈴本人が良いというのだから躊躇う必要はないと、私は観鈴の部屋へ足を踏み入れたのだった。
 観鈴の部屋は部屋中に恐竜のポスターやらぬいぐるみが置かれており、いかにも恐竜好きな少女の部屋だった。
「さてと、往人さんはパソコン初心者みたいだから、最初はわたしが操作しますね」
「うむ。頼んだぞ、先生」
「にはは。わたし、往人さんのお師匠さん」
 笑顔で観鈴がパソコンのスイッチを押す。暫くするとパソコンの画面に映像が映り出した。
「まずはパスワードを入力して……」
 パソコンの画面上で何が行なわれているかさっぱり分からないが、観鈴の言葉に従う限り、暗号を入れているようだ。こんな個人が使う物に暗号が必要だとは、パソコンというのはよっぽど厳重に管理しなければならないものらしい。
「よし! 起動完了っと!」
 パスワードが入れ終わると画面の左側に何やら多数の小さい絵が現れ、そして画面全体に大きなデフォルメ化された恐竜の絵が映し出された。
「往人さん、この先どうやってネットに繋げばいいか分かるかな?」
「分からん。しかし、この状態でどうやってネットというのが出来るのだ?」
「にはは。往人さん、本当に初心者」
「悪かったな。こう見えても旅の日々でパソコンなどとは無縁だったのだよ」
 パソコンという言葉は無論聞いたことがあるが、そんな物は私の日常とは縁が無かったので、使い方など知る由もない。
「あっ、ゴメンなさい。別に悪い意味で言ったんじゃないから。何て言ったらいいのかな? わたしが往人さんのお役に立てるっていうのが嬉しいのかな」
「私は年下に教えられる羽目になって、非常に不愉快だ」
「が、がおっ……」
「むっ、いや、その……。確かに年下に教えを請うのは気分が良くない。然るに観鈴に教わるのはそうではない。観鈴に教えてもらえるのが良いのだ!」
 観鈴が今にも泣き出しそうな顔をしたので、私は咄嗟に弁明した。
「でも、年下に教わるのは不愉快なんでしょ……?」
「いや、だから、観鈴は特別なのだ!」
 観鈴に突っ込まれたので、私は言い訳にも値しない突発的に思い付いた言葉を口にした。
「特別? わたしが?」
「そうだ! 私にとって観鈴は特別な人間だ!!」
「わたしは往人さんにとって特別な人。にはは。わたし嬉しい」
 咄嗟に思い付いた言葉だったが、何とか観鈴は笑顔を取り戻してくれたようだ。
 しかし、咄嗟に思い付いた言葉だったが、観鈴は特別だという言葉は決して嘘ではない気がする。いや、今はまだ特別な人間になりつつあると言った所か……。
「うん! よーい、ドン!!」



「……で、このアイコンをクリックするとインターネットエクスプローラーが起動して、ウェブページにアクセスされるんです」
 観鈴の口から放たれる数々の横文字。どの言葉も初耳な言葉ばかりで、目の前で何が繰り広げられているかさっぱり分からない。
「はい。これでインターネットに繋がりましたよ。どんなページが見たいです、往人さん?」
「ページを見たい? パソコンのマニュアル本でもあるのか?」
「にはは、そうじゃなくて……。往人さん、テレビのチャンネルの切り替え方は分かりますよね?」
「馬鹿にするな! いくら流浪の生活を続けていたとはいえ、その程度のことは出来る!」
 ついこの間までビデオの操作方法すら分からなかったのであまり偉そうなことは言えないが、これでも非文明人よりは機械類を扱える自身はある。
「うん、それなら大丈夫。ようはテレビのチャンネルを切り替えるのと同じことです。テレビもスイッチを換えると様々なチャンネルが見られるように、ネットも色々なページが見られるんです」
「つまり、テレビが電波で様々なチャンネルを受信している様に、インターネットというのもまた、様々なページなる物を受信しているのか?」
「はい。厳密には受信しているわけじゃないけど、似たようなものです」
 成程。インターネットというものがどういうものかさっぱり分からなかったが、観鈴の話を聞く限り、本とテレビを融合させたようなものだと捉えれば良いだろうか。
「然るに概要は大方分かったが、それで操作出来るという訳ではない。済まんが、手本を見せて頂けぬか、観鈴先生」
「任されよ〜〜! 師匠のお手本とくとご覧あれ〜〜!!」
 半ば冗談で「先生」と言ったのだが、観鈴は余程嬉しかったのだろう。意気揚々と私への指導を始めた。
「ページへの繋ぎ方はリンクを辿るって方法もあるけど、ググるのが一番早いかな?」
「リンク? ググる?」
 またもや分からぬ専門用語の羅列に、私の頭はそろそろ混乱し始めて来そうだ。
「あっ、ごめんなさい、ついいつものノリで……。リンクっていうのはあるウェブサイトから違うウェブサイトに飛ぶ行為を指しているんですけど、それだと必ず任意のサイトに辿り着けるわけじゃないんで、今はググり方を教えますね。
 ググるっていうのは「Google」っていう検索サイトでサイトの検索をすることで……」
「検索? 言わば索引みたいなものか?」
 相変わらず観鈴の言っていることが分からないので、自分の分かる範囲の物で例えられるのか訊ねてみた。
「はい。似たようなものです。本の索引ページだと羅列されている単語の該当ページが記されていたりしますけど、ウェブの検索だと、任意の単語を入力してその単語のみの索引ページを開くような感じです」
「ふむ。徐々にだが理解出来て来た。続きの操作を頼む」
「はい。今、Googleのサイトに繋ぎました。ここに表示されている入力バーに任意の文字を入れて、検索ボタンをクリックすると……」
 観鈴は”恐竜”という単語を入力バーなるものに入れ、検索ボタンなるものを押した。すると、一瞬にして恐竜という単語が含まれた文字列が画面一杯に展開された。
「……と。こんな感じです。やって見ます、往人さん?」
「うむ。然るに……」
 いざインターネットをやろうと思っても、特に見たいページがある訳ではない。さて、どんなページを見るか?
「! 観鈴、このインターネットというのは何でも見れるのか?」
「はい。大方のものは見られると思います。アングラサイトを辿れば遺体画像も見れたりと……」
「そうか……。済まんが暫くネットをやってみたいのでな、何か飲み物なり菓子なりを持って来てはくれぬか?」
「はい。持って来ますね〜〜」
 観鈴は二つ返事で部屋を後にした。
「フッ、許せ観鈴。私も男なのだよ」
 先程観鈴は大方のものは見られると言った。死体画像が見られるくらいならば当然女の裸体画像、所謂エロ画像も見られるのだろう。
 然るに、女である観鈴のいる前でエロ画像を見る訳にはいかない。いや、見ようとすれば恐らく観鈴は止めるであろう。故に私は観鈴を一時的に部屋から追い出したのだった。
「さて、問題はどういう文字で検索するかだが……」
 思い悩んでいても意味がないので、とりあえず”エロ画像”で検索してみることにした。そうすると、先程のようにエロ画像という単語が含まれた文字列が画面いっぱいに展開された。
 大量に表れたのはいいがどれを見れば良いのか分からないので、とりあえず一番上のものから見ることにした。
「むうっ、これは!?」
 その文字列を押せばすぐエロ画像が見られると思ったが、そうではなかった。画面には卑猥な文字が乱舞しているだけで画像らしきものは一切なかった。
「ん? ひょっとしてこの先を更に辿ればエロ画像に辿り着けるのか?」
 これは直感だが、恐らくこの文字列の更に奥にエロ画像があるのだろう。問題はどの文字列を押せば良いかだが……。
「『女子高生、無修正中出し画像』か……」
 それが私が一番目に付いた文字列だった。無修正というのは、恐らくモザイク等がかかっていないことを指しているのだろう。一般流通では例えどんなエロいものでさえ、国内の物は修正がかけられている。その上児童ポルノ法の施行により、18歳未満の女性のエロ画像は修正された物さえ見ることが叶わない。
 モザイクがかかっていない所か、一般では流通不可能な女子高生の画像まであるとは、インターネットとは何と素晴らしいものか! そう心の中で狂喜乱舞しながら、私は『女子高生、無修正中出し画像』の文字列を迷うことなく押した。
「何とっ、まだ辿り着けんか!?」
 しかし、その先にはまたしても卑猥な文字列が並んでいるだけだった。
「ええいっ! 大方のものが見られるとは嘘を付きおって、全然見られんではないか!!」
 全然目的の物が見られないことに、私は苛立ち始めていた。
「むっ、なんだこれは!?」
 気付くと、いつのまにか自分では開いたことのないページが画面に表示されていた。
「なっ、なにぃっ!?」
 次の瞬間、数秒毎に新たなページが開き続けた。私は目の前で何が起きているのか全く理解出来ず、ただただ狼狽するだけだった。



「往人さん、お待たせ〜〜。って、何やってるんですか!?」
 部屋に戻って来た観鈴はパソコンの画面が異常なことになっているのに驚き、慌てて私の元へ駆け付けた。
「観鈴、ちょうどいい所に来た。実は……」
「どいて下さい、往人さん!」
「っ!?」
 普段の観鈴からは想像も付かない態度に私は驚き、急いで観鈴と代わった。その後観鈴は素早いキーボード操作で次々と出没する画面を消し去って行った。
「ふう、これで終わりと……」
「済まんな、観鈴。色々と手間をかけさせて」
「もうっ、ダメですよ、往人さん。ああいうえっちなサイトにはブラクラやウイルスが潜んでいたりするんですから!」
「画面に異常を来したことは素直に謝罪する。しかし、先程観鈴はどんな画像でも見られると言ったが、『女子高生、無修正中出し画像』など、何処を探しても見付けられなかったぞ!」
「……。そんなのを見ようとしてたんですか、往人さん……」
 抜かった! ついうっかり自分が見ようとしていた画像の名を語ってしまった。
「そういう煽り文のリンク先は大概騙しリンクで、画像が置いてあるのは極稀ですよ。確かに大方のものは見られますけど、そういう法律に触れるものは簡単には見られないんですよ」
「むうっ、それは残念だ……」
「……。そんなに女子高生の裸が見たいんですか……?」
「私も男だ。女の身体の一つや二つ見たいと思っても不思議ではなかろう」
「分かりました。じゃあ、わたしでガマンしてください……」
「!?」
 そう言うと、観鈴はいきなり私を押し倒した。
「観鈴っ……」
「往人さん。往人さんにとってわたしは特別なんですよね……。だったら……」


…第拾九話完

※後書き

 とりあえず今回誰もが思うことは、「何で晴子さんがいないんだ?」ということでしょう。当初の予定では出すことも検討していましたけど、東北弁で喋る晴子さんなんて誰も見たくないだろうと思い、観鈴を引き取っていないという設定にしました。
 聖さんが医者じゃなかったり、往人の性格が全然原作と違かったりしているのに何を今更という感はありますが、関西弁じゃない晴子さんは流石にないだろうと思いましたので。
 まあ、観鈴を引き取っていないということだけで、出番が全くないという訳ではありません。一応今後出る予定はあります。出るとしてもメインにはならないでしょうが。
 もう劇場版でもTV版でも観鈴と晴子さんの親子愛はこれでもかと描かれたので、今更自分如きが描く必要はないと。家族愛的なテーマは第一部でそれなりに書いたつもりですし、二部は基本的に往人と観鈴の恋愛物という感じで展開していくと思います。
 恋愛物として描く辺りも、一応劇場版を意識しているということで。

第弐拾話へ


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